columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

6月22日, 2019年

ミツバチと父の日

 父の日(6月第3日曜日)を祝い,Facebook のEthnobeeology にアップされた「太った,お気楽な紳士達」と題された図です.
 お父さん蜂が息子たちにやさしく語りかけているのでしょうか?ミツバチの絵本などで見かけたことがほとんどないテーマですね.
 実際には,ミツバチの社会に父親と子の団らんは存在しないからです.

 1944年にイギリスで出版された’The Queen of the Golden Bees: A Fairy Tale Founded on Fact’という絵本に含まれる図です.“事実に基づいた童話” との副題が示すように,こののんきな父さんとしての雄蜂(ドローン)の姿は,本文内で真っ向から否定されてしまいます.
 働き蜂と女王蜂は有精卵から育ちますが,その父親(女王蜂との交尾直後に絶命する)に会うことは決してありません.また雄蜂には父親がはじめからいません,そのコロニーの女王蜂の遺伝情報だけをもつ無精卵から生まれるからです.
 雄蜂は英語でドローンDrone(のらくらとして働かない居候)と名付けられています.Queen やWorkerとは相当かけ離れたイメージの言葉ですね.確かにドローンには巣を敵から守るための針がないし,育児や巣の維持管理にも手を出さない.成蜂になって巣箱を飛び出しても,花粉や花蜜を集めて巣に持ち帰る仕事はしません.成熟した雄峰はさかんに雄蜂集合場所(DCA)に飛んでいき,大きな目で女王蜂をひたすら探します.DCAに飛来した1匹の未交尾女王蜂を追って多数の雄蜂が彗星の尾のように飛び回る中,その競争に勝って空中で女王蜂と交尾したら,交尾器を女王蜂に残して,自分は地上に落下していきます.
 人間の視点からは,ミツバチコロニーの中で,他の群の女王蜂と交尾する以外なんの役にも立たない,ほとんど無用の存在と扱われてきました.しかし最近の研究で雄蜂にはコロニー内で多くの役割があり,実用本位の存在であると解明されつつあるそうです.